知人の紹介で、LEAVING FEAR BEHIND「恐怖を乗り越えて」という映像を見る機会を得た。タイトルは、チベット語の「Jigdrel」(恐怖からはなれる、恐怖を乗り越える)から来ている。撮影は二人のチベット人、ドンドゥプ・ワンチェンとジグメ・ギャツォによって、2007年11月から2008年3月の間で、チベット全土で行われた。多くの人たちがカメラの前に素顔をさらし、自らの言葉を発する。ドンドゥプ・ワンチェン(ドンドゥプ・ドルジェ)自身が壁を背に、ゆっくりと語りかける。チベット文化を学ぶ集会に集まった人たち、インタビューに答えるその人たちの顔はフォーカスをはずされ、識別できない。チベットの大地に家畜の群れを放牧する人たち、TVに写るダライ・ラマ14世の映像に祈りを捧げる人たち、その人たちも静かにカメラに語りかける。
 安全地帯にいる私(たち)は、あっというまもなく揺さぶられ、混沌のなかに放り出される。誤解を恐れずあえて言葉にすれば、それはかぎりなく美しくそして、ただの映像として起立している。