第26回東川町フォト・フェスタ2010は、昨年と同じく最終日に雨に見舞われたが、その熱気はさらに増したようだ。東川町の皆様の献身的なご協力は、このフォト・フェスタの最大のパワーであることは間違いない。

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帽子の紳士はアートディレクターの浅葉克己さん

帽子の紳士はアートディレクターの浅葉克己さん

 

 東川賞受賞作家フォーラムの様子。進行はすべて審査会委員の佐藤時啓さん。まずは、今回から設立された飛騨野数右衛門賞の小島一郎から。佐藤さん以外では、美術館学芸員の高橋しげみさん、作家の平野敬一郎さん、批評家、楠本亜希さん、批評家、倉石信乃さんが参加。

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 1964年に39才の若さでなくなった小島一郎の大回顧展は昨年、青森県立美術館で行われ、また写真集成がインスクリプトより出版され、さまざまな反響を巻き起こした。

このフォーラムで、青森県立美術館での回顧展をキュレーションした高橋さんは、「自らの戦争体験や、自己の写真活動での地方と中央のギャップなどと格闘してきた小島一郎の写真を、単に写真史的な再評価といった文脈でみることへの違和感」といったことを述べられたと思う。また、倉石さんの、「極小の、あるいはマイナーなところからのジャンプによって、新しいロマンティシズムといったものの可能性を問うことができるではないか」といった発言が印象に残っている。お二人の発言はあくまで私、露口個人の受けとめ方であって正確なお二人の発言ではないことを、お断りしておきます。

 小島一郎のプリントを見たのは、一昨年、青森美術館での展覧会の前に、収蔵庫で高橋学芸員に見せていただいたのが最初である。そのときは、やはりその特異なプリントの方法に圧倒された。もちろんプリントが作家性のすべてではないが、小島一郎の作家性というときに、そのプリントは重要な要素には違いない。しかし、幸運にも今回もプリントを見ることができ、小島一郎の写真を考えるときに、重要なことはいわゆる作家性といったものから逃れてしまう何か。それは生まれ育ち、そして生活している場所を撮るということとも関連していると思うが、その何かが重要である気がする。

 

 次は、新人賞のオサム・ジェームス・中川さん。中川さんは現在、インディアナ大学芸術学部写真学科長。作品は夫人の出身地沖縄の「バンタ」「ガマ」をデジタルカメラで撮影し、複数の画像(驚くなかれ、その数は平均して80枚に及ぶという)を再度コンピュータ上で加工したもの。フォーラム参加者は、作者の中川さんと佐藤さんの以外は、写真家の平野正樹さん、写真批評家の笠原美智子さん、美術批評家の岡部あおみさん、写真家の野町和嘉さん。

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「バンタ」「ガマ」はそれぞれ絶壁と洞窟を意味し、沖縄戦での極めて重大な現場であったことは言うまでもない。さらに中川さんの制作の方法は今後の写真の可能性についての重大な問いかけを含んでいる。それらを巡って、参加者の発言はそれぞれの場所で、熱を帯びて来る。

 めまいを誘うようなその画像は、デジタルか、銀塩かといった議論をいっぺんに飛び越えそうに感じた。

 

 特別賞の萩原義弘さん。萩原さんは毎日新聞社写真部を経て、現在フリー。フォーラム参加者は、写真家の山崎博さん、アートディレクターの浅葉克己さん、写真家の田中昭史さん、野町和嘉さん、岡部あおみさん。

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 萩原さんは、いつも穏やかな笑顔を絶やさない。25年以上見つめ続けてきた夕張への視線にもその人柄が表れているようだ。落盤事故から閉山へ、そして財政破綻と戦後の日本の負の部分を象徴してきたかのような夕張をこれからも見続けることの重大さは、想像を超えているだろう。萩原さんも出品作家のひとりであった昨年の目黒美術館での「炭坑展」は、閉山という負の歴史の刻印を押されながらも、まさに想像を絶するエネルギーに満ちていた。これからの夕張はそのエネルギーを再び取り込むことが出来るだろうか。

 

 海外作家賞は、台湾のChin-pao CHENさん。陳さんも中川さんと同じく、アメリカで写真を学んでいる。陳さんの視線はひたすら人と人が産み出す文化に向かっている。それも徹底して愛情に満ちた視線で。フォーラム参加者は、浅葉克己さん、楠本亜希さん、笠原美智子さん、そして台湾で写真教育に携わるWU Jiabao さん、通訳としてCHIU I-Chienさん。

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 一見オーソドックスに見える陳さんの作品には、さまざまな写真史的要素が流れ込んでいる。陳さんの作品は今回東川で見たのがすべてだが、全作品が見ることの喜びに満ちている。「片刻濃女:ビンロウ西施」「迴返」「天上人間」、どのシリーズもぜひとも日本での展覧会開催を、と思わせる。

 

 最後に、国内作家賞の北島敬三さん。昨年の東京都美術館での写真展、写真集「THE JOY OF PORTRAITS」と注目を浴びる北島さんのフォーラムは期待どおりスリリングなものだった。参加者は、都写美の岡部友子さん、倉石信乃さん、山崎博さん、平野敬一郎さん、進行はもちろん佐藤時啓さん。

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 個人的には北島さんの写真「PORTRAITS」や「PLACES」のシリーズは、現代日本写真の最重要な作品であり、北島さんは、文字通り写真家と呼ぶにふさわしい人の一人だと思っている。その北島さんと山崎博さんとの対話は、まるで武芸者同士の真剣での立ち会いを思わせた。

「PLACES」のもつ差異性の表出力に対抗する手段はあるだろうか。