北海道近代美術館学芸員、穂積利明さんのキュレーションによる、CAI企画展「まぼろしの作品―Unconfirmed Pieces / Mirage of Art」に参加します。昨日、展示を終了しました。以下、CAI02のサイトからの転用です。

CAI企画展「まぼろしの作品―Unconfirmed Pieces / Mirage of Art」のご案内

今週の金曜日4月13日から、CAI主催による標記の展覧会がはじまります。今回は、露口啓二、坂東史樹、鈴木涼子という3名の作家の、なかなか見ることのできない作品を紹介します。オープンの翌日4月14日(土)にはオープニングとして、アーティストトークとレセプションを行う予定です。アーティストトークは、19:30~20:30に「写真の生み出される場所」として、出品作家である露口啓二氏、鈴木涼子氏にお話しいただきます(司会:ゲストキュレーター・穂積利明氏)。レセプションでは軽食をご用意しておりますので、多数お集まりくださいませ。

「まぼろしの作品―Unconfirmed Pieces / Mirage of Art」について

今回の展覧会では、露口啓二、坂東史樹、鈴木涼子という3名の作家による作品を紹介します。タイトルの「まぼろしの作品」は3つの意味を含んでいます。それは、公共性、表象性、場所性という3つの「まぼろし」です。露口啓二の「オホーツク/シモキタ」は、シリーズ化を目指してとりくんでいたものの、3.11以降に作家本人によってひっそりと封印されました。坂東史樹の作品は、待望された4年ぶりの新作でありながら、苫小牧で10日間ほど展示されたのみで、札幌圏のファンがほとんど見られなかった作品です。鈴木涼子の作品は、ポートレートの新シリーズ「私は」のスピンオフとして制作され、札幌市500メートル美術館に出品予定でありながら、故あって展示されなかった作品です。つまり、それぞれが、鑑賞の機会を失われたり制限された「まぼろしの作品」なのです。また、ここでは各作品が「まぼろしの風景」をあつかっています。

坂東作品と鈴木作品はまさにそこにない風景を現出させようとしていますし、もっとも対象と密着しているように見える露口啓二の写真作品も、完全な場所の写し取りではありえません。むしろ、対象の後ろにある「本質的な」部分を見ようとするからこそ、それは現実の対象と離れていく、ということも言えるのです。それは本質とはなにか、という問いとも近接していると言えるでしょう。そうした作品の、鑑賞機会の稀少性や、作品が表象する「まぼろし」のほかに、「場所性というまぼろし」についても、この展覧会では見ていきたいと思います。本来展示されるべき場や空間から離れて展示された場合、作品の価値はどのように変わるのか、あるいは変わらないのか。つまり、サイトスペシフィックとはどういう質のアートの「力」であるのか、あるいはそれはアートの質や力とはまったく無関係なのか、「場(サイト)」というものが絶対的なのか、あるいは捏造に似た「まぼろし」とも言える共同幻想なのか、…などなどを、実在の作品を前に、観覧する方々とともに、考えてみたいと思っているのです。

なんだかんだと、展覧会成立のためのよくばりなエクスキューズを申し立てていますが、最終的にこの展覧会は、単に今、北海道内で私自身が見たかった作家作品を集めた展覧会になるかと思います。

(穂積利明/北海道立近代美術館主任学芸員、美術批評)

会 期:2012年4月13日(金)―4月28日(土)/13:00~23:00 ※日曜休廊

会 場:CAI02 (raum1)

060-0042 札幌市中央区大通西5丁目昭和ビルB2

T E L : 011-802-6438

Web:http://www.cai-net.jp

ゲストキュレーター:穂積利明(北海道立近代美術館主任学芸員、美術批評)

主 催:CAI現代芸術研究所

協力:RAM(浅野総二)

【関連イベント】

4月14日(土)19:30-22:00 アーティストトーク&オープニングレセプション

19:30-20:30 アーティストトーク「写真の生み出される場所」

出演:露口啓二×鈴木涼子(司会:穂積利明)

【出品作家プロフィール】

露口啓ニ KEIJI TSUYUGUCHI:

1950年徳島県生まれ。1999年から、沙流川などアイヌ語由来の地名や地形をテーマとした「地名」シリーズをはじめる。国際巡回した「現代日本の写真 Black Out展」(2002年、日本文化会館・パリ及びローマ、国際交流基金フォーラム・東京)、「ノンセクト・ラディカル―現代の写真Ⅲ」展(2004年、横浜美術館)などに出品。2009年、東川賞特別賞を受賞。同年、「Blinks of Blots and Blanks展」(八戸市美術館)に出品し、同時に『露口啓二写真集/Blinks of Blots and Blanks/ICANOF2009』(ICANOF出版)を発表。地名を起点に風景を撮影することにより、その歴史的堆積や欺瞞性を暴くような作品を制作しつづける。

坂東史樹 FUMIKI BANDO

1963年北海道生まれ。創形美術学校造形科を経て、1995年ロンドンユニバーシティー、ゴールドスミスカレッジ大学院(ファインアート)卒業。その後、一貫して札幌を拠点に活動する。「ゴールドスミスからの衝撃」(1998年、東京・上野の森美術館EXTRA)、「An Answer from 43°4’N 141°21‘E -北日本の5人の作家達」(2002年、ドイツ・ハンブルグ)、「札幌の美術2002-20人の試み」展(2002年、札幌市民ギャラリー)、「北の創造者たち2003―虚実皮膜」(2003年、札幌芸術の森美術館)などに出品。1996年、サッポロアートアニュアル’96大賞受賞。イリュージョンを縦横無尽に生み出す特異な作風と、寡作ゆえにその作品のファンは常に飢餓感を募らせている。

鈴木涼子 RYOKO SUZUKI

1970年北海道生まれ。武蔵野美術大学短期大学部美術科を経て、創形美術学校版画科修了。1999年ころから写真に取り組み始め、ジェンダーやセクシュアリティなどをテーマにすることで、自意識や欲望をあぶりだす作品を制作する。主な出品展覧会に「手探りのキッス 日本の現代写真」(2001年、東京都写真美術館)、「北の創造者たち2003―虚実皮膜」(2003年、札幌芸術の森美術館)、上海ビエンナーレ(2004年、上海美術館)、「グローバル・フェミニスムス」展(2007年、ブルックリン美術館)などがある。第21回東川賞特別賞授賞(2005年)、第15回道銀芸術文化奨励賞授賞(2006年)。東京都写真美術館、上海美術館、メリーランド州立大学アートギャラリーなどに作品が収蔵されている。