二泊三日の温泉取材という天国のような仕事を終え、帰ってみると石川直樹さんの最新写真集「アーキペラゴ」が届けられていた。石川さん、すばらしい写真集をありがとう。写真集には石川さんご自身のテキストと、倉石信乃さんのいつもながら鋭利な論考が所収されていて、さらに付け加える必要はまったく考えられないが、ほんのささやかなお礼として個人的感想を記しておきたい。

 石川直樹写真集「アーキペラゴ」の北の部分は、青森を起点に北海道とその周りの島々、サハリン島、クイーンシャーロット諸島で構成されている。札幌の写真は北海道の最初におかれてはいるが、そこが北海道に置ける起点とはされていない。青森をとりあえずの起点として北上していくことは、北海道を見るためには極めて賢明な判断だと思われる。青森から札幌-白老-有珠山-浦河-旭川-別海-古平-フゴッペ-二風谷-弟子屈-稚内-根室-利尻島-礼文島-天売島-といった北海道を縦横無尽に横断する運動の後、石川直樹はサハリン島、そしてクイーンシャーロット島へと移動する。この自在な移動、運動こそ石川直樹の写真の根源を内側から規定するものと思われ、それには羨望を抱かざるを得ない。クイーンシャーロット島における、「保存という名の収奪を拒否し(石川)」、朽ち果てるままにされたトーテムポールは圧巻だ。それは作品が崩れゆくことをも作品生成の過程とした砂沢ビッキの行為を思わせる。砂沢ビッキは作品を森に置き、自然とダイレクトに融合させたかったのだろう。ハイダの人々と砂沢ビッキの交錯の場に石川直樹のまなざしも交錯する。それは別海の子牛の瞳とも、クイーンシャーロットの鹿の瞳ともまた交錯する。